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院長ブログ
2019.09.10

手術の適応

我々が良く使う専門用語で「適応」という単語がありますが、一般の方々には耳慣れないかもしれません。通常はその状況に合っていること、を示すのですが、医学用語としては、例えば手術などの治療の際、治療に伴う副作用や合併症などのリスクに見合った効果が得られると考えられる場合に「適応」がある、と表現します。リスクが大きすぎる治療法のみならず、どのような治療法にも少なからず副作用はありますから、不必要な治療、すなわち「適応」が無い治療は行うべきではなく、他の治療方針を検討すべきなのです。小さな飲み薬でも大きな副作用が潜在しているように、イメージとそのリスクが異なる場合もあります。小さい傷でできる腹腔鏡下手術も同様、適応を守って手術を行うのは当然のことです。

卵巣腫瘍は我々産婦人科医が日常よく遭遇する疾患のひとつですが、その手術適応に悩むことがあります。卵巣はおなかの中にありますので、超音波検査や、MRI検査などである程度は診断できますが、最終的な良悪性の診断は手術をしなければ確定できませんし、良性腫瘍でも、大きさや性状によっては捻転(おなかの中で捻じれてしまうこと)や、破裂のリスクが高いと思われる場合は手術適応となります。適応となる場合には、妊娠中に手術を行うこともあるのです。一方、卵巣全摘出でなく、正常な部分を残存させる手術でも、卵巣自体にメスを入れる以上、卵巣機能低下のリスクは0ではないと言われており、安易な手術は避けるべきであり、小さな良性卵巣腫瘍は経過観察となることもよくあります。

さて、抗NMDA受容体抗体脳炎という卵巣腫瘍が原因で脳炎を起こしてしまう疾患があります。症状は精神症状やけいれん発作を引き起こし、悪化すれば昏睡状態となり人工呼吸器が必要となることもある重篤な疾患です。若い女性に起こるため、古来、悪魔憑きとされていたものもこの疾患だったかもしれないと言われています。卵巣腫瘍から産生される物質が原因であり、腫瘍摘出により劇的に改善しますが、画像診断で診断できないほどの小さなものでも発症することがあるため腫瘍の大きさに関わらず、手術適応となります。私も大学病院時代にこの症例を経験しましたが、術前後で患者さんの人格が激変し、すごく驚いたことを記憶しております。ご家族は元の性格に戻ったと大変喜んでおいででした。劇的な経過を辿ることもあり、この疾患が題材となった小説や映画もあります。もしかしたらご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。

このように、手術適応はその患者さんの状態によって慎重に検討すべきものです。そして、良性卵巣腫瘍については以前お話した婦人科内視鏡手術ガイドラインにおいても腹腔鏡下手術が第一選択となっております。医師はガイドラインなどを参考に、患者さんにベストの治療法を選択できるよう、「適応」を検討しているのです。