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院長ブログ
2020.09.24

不妊治療の保険適応③ 適応外使用と病院持ち出し

わが国が世界に誇る国民皆保険の問題について、前々回、前回と述べてまいりました。混合診療が禁止されている以上、一連の治療の中で保険診療と自費診療を混合することはできないことになっておりますが、それが問題となることがありますので、ひとつ例を挙げたいと思います。また筋腫の手術の話になりますが、例えば筋腫核出術の際に頻用するバソプレシンという薬剤があります。基本的には抗利尿ホルモンとして、尿崩症の治療など使用されるお薬なのですが、子宮筋腫核出の際、子宮に局所注射することで、術中出血を大きく減少させる効果があり、手術のガイドライン上も推奨されている日常的に使用する薬剤でもあるのです。しかしながら、この薬剤、筋腫核出時の使用法は保険適応とはなっておらず、適応外使用として病院の持ち出しで使用され続けております。かなり古くからあるお薬ですから、薬価も低く、製薬会社としても今更適応を取るために治験を行うことはしないでしょう。このように、よりよい医療のため、適応外の薬剤やそもそも医療費として償還されない医療機器はその対価が得られないとしても、医療者側や医療施設が持ち出しで使用していることも多々あるのです。

体外受精の排卵誘発でよく使用するレトロゾールは乳がんの治療薬ですし、採卵前の切り替えによく使用するGnRHaの点鼻薬は、子宮筋腫や子宮内膜症の治療薬であり、排卵誘発には適応はありません。もし、不妊治療の保険適応が認められたとしても、これらの薬剤が適応外使用とされた場合は保険点数が加算されず、処方などのコストを病院やクリニックの持ち出しでの処方しかできなくなってしまうかもしれません。すなわち、赤字覚悟で使用を続けるか、あえてこれらの薬剤を使用せずに治療を行わなければならなくなる可能性があるのです。不妊治療の保険適応で“医療の質が落ちる”という懸念はこのような背景からだと思います。ただし、この点は、皆保険には本来的に包含する問題であり、そもそも実際には皆保険が医療の質を担保するものではないのです。それでも質の高い医療が提供されているのは医療者のプロフェッショナリズムによるものだと思うのです。

逆に保険適応が無いため、必要な治療であっても敬遠されてしまうこともあります。例えば、排卵誘発抵抗性の多嚢胞性卵巣症候群では、ガイドライン上、腹腔鏡下卵巣多孔術か体外受精が選択肢となっているのですが、手術は保険適応がある一方、もちろん、体外受精は保険適応がありません。特に30代後半の患者さんなどで早く妊娠を望まれる場合には体外受精の方が良いと思われるのですが、保険適応の有無で治療選択にバイアスがかかってしまうのです。さらに不必要な治療であっても保険適応があるから、という理由だけで行われてしまうこともあるかもしれないのです。

よって、私自身としましては、保険適応には基本的に賛成で、患者さんの窓口負担が減ることは大変良いことだと思います。しかしながら、長きにわたり自費診療を続けてきたわが国の不妊治療においては、急な変革による混乱が懸念されます。よって、治療をうまく切り分けるなり、特例として混合診療を認めるなり、何か方策を考える必要はあると考えます。特に混合診療は、他科にも影響する話であり、さらに混乱を招くかもしれませんが、国民皆保険の問題を議論する良い機会になるのではないかとも期待したいと思います。

一クリニックの院長が何を言っても影響力はほとんどないかもしれませんが、今後様々な議論が起こればよいと思い、私見を述べさせていただいております。次回、もう少しお話させていただきたいと思います。